流産とは
子供を望む方々にとって特別なライフイベントである妊娠・出産。
胎児への影響や流産のリスクを考慮し、妊娠中の女性は激しい運動を控えたり、食べるものに気を付けるよう指導されます。しかし、避けようのない流産や原因不明の流産というものがあるのも事実で、どんなに気を付けていても流産してしまうことがあります。
監修
山田 満稔 先生
慶應義塾大学, 医学部産婦人科学教室, 専任講師
一般的に流産とは、妊娠が成立した後に胎児がお腹の中で育っていく比較的早い段階で亡くなってしまう状態を指します。
日本産科婦人科学会によれば、流産とは「妊娠22週(胎児が母体の外で生きられない週数)より前に妊娠が継続できなくなった状態」と定義されています。
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=4
妊娠した女性のうち10~20%程が妊娠20週頃までに流産しているという報告もあり、流産そのものはそれほど珍しい現象ではありません。
流産の原因
すべての流産に明確な原因が見つかるわけではなく、むしろ不明な場合が多いのが現状です。もっとも、科学技術の進歩と共に流産の原因についての知見は蓄積されつつあります。
考えられる原因のいくつかを以下に記載いたします。
胚・胎児因子
妊娠12週未満に起こる流産のことを早期流産と言い、早期流産の原因のほとんどが胎児の染色体異常であると考えられています。
染色体とは、遺伝子の本体であるDNAがヒストンなどのタンパク質に巻きついて折り畳まれたものです。
ヒトの場合は父親と母親から23本ずつ(計46本)染色体を受け継ぎますが、その際に染色体数が過剰・あるいは不足することがあります。たとえば、細胞分裂する際に染色体が均等に分配されないと、胎児の染色体が1本多くなったり(トリソミー)、少なくなったり(モノソミー)することが起こり得ます。
これ以外にも受精卵の染色体の一部が入れ替わったり、消失するなど、染色体の構造に変化が起こることがあり、化学流産や稽留流産の原因となります。
母体因子
妊娠12週以降~22週までの間に起こる流産では、母体における細菌感染や子宮の異常などが原因となっている場合があります。
感染流産は、母体が細菌などに感染することで引き起こされます。
また、母親に内分泌や血液凝固の異常があると、反復流産や習慣流産の原因となる可能性があります。
その他の要因
男性の加齢が流産のリスクを上げるとの報告もあるようです。
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html
また、何度も原因不明の流産を繰り返す場合には、原因として両親の染色体構造異常が疑われる場合もあります。
「流産」といっても様々な種類がある
一口に流産と言っても、流産の発生した時期や原因、現れる症状などで細かく分けられ、さまざまな呼び方をされます。
妊娠3週後半〜6週くらいまでは「化学流産」
市販の妊娠検査薬などによる化学(生化学)的な検査で陽性判定が出たにもかかわらず妊娠を継続することができないこと、超音波検査では胎嚢を確認することができない状態のことを化学流産といいます。
妊娠検査薬で反応が出る妊娠3週後半〜4週目から、ほぼ確実に超音波検査で妊娠(胎嚢)が確認できる妊娠5~6週目くらいまでの間に発生します。
症状としては、自覚症状がないか、生理のような出血が見られることもあるため、妊娠したことに気付かずにそのまま次の生理を迎える場合も多くあります。
自覚症状のない「稽留流産」
胎児が子宮の中で亡くなった後、胎児や胎盤などが子宮から排出されずに残っている状態を稽留(けいりゅう)流産と言います。
腹痛や出血のような自覚症状が現れないため、医療機関で検査を受けてはじめて発覚するケースがほとんどです。
稽留流産後の対処としては、子宮内の胎児や胎盤が自然に排出される(進行流産)のを待つか、手術でこれらの内容物を取り除く方法があります。前者の場合、出血や痛みを伴うこともあります。
稽留流産の場合、子宮内に胎児や胎盤などの内容物が残っているため、まだ妊娠していると体が錯覚して、流産した後もつわりが続く場合があります。
止めることができない「進行流産」
亡くなった胎児や胎盤などといった子宮内の内容物が、子宮外に排出され始めている状態を進行流産と言います。一度進行流産が進んでしまうと、止めることはできません。
この状態になると、内容物を排泄するために子宮が収縮して痛みが出たり、出血を伴うことがあります。
進行流産の対処としては、経過を見て子宮内の内容物が自然に出てくるのを待つか、稽留流産のように手術で子宮内の内容物を取り除く方法があります。
進行流産は、その状態によって完全流産と不全流産に分かれます。
完全流産:子宮内の胎児や胎盤が、すべて子宮外に排出された状態を指します。ほとんどの場合、出血や痛みなどの症状は治まっています。
不全流産:子宮内の胎児や胎盤の排出が始まっているが、一部が子宮内に残ってしまっており、出血や痛みなどの症状が持続している状態をいいます。
敗血症の危険もある「感染流産」
細菌やウイルスに感染することで起こる感染流産は、適切に管理しなければ敗血症に進行してしまうこともあります。母体にも危険が及ぶ場合もあり注意が必要です。
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/59/11/KJ00005050116.pdf
感染流産は、腟内で起こった細菌感染によって引き起こされると考えられています。腟内の細菌が羊水内にまで侵入すると、卵膜が脆弱化し破水が起こりやすくなるためです。
妊娠12週未満の流産では約15%、それ以降の流産では約65%に細菌感染がかかわっているとも言われています。
何度も繰り返す「反復流産」と「習慣流産」
反復流産:2回流産が続く状態。約2~5%の確率で起こると言われています。
習慣流産:3回以上流産が続く状態。約1%の確率で起こると言われています。
流産が繰り返される頻度は一般的にはそれほど高くないため、流産が2回以上続く場合は不育症の可能性を視野に入れ、検査や治療を受けることも考えましょう。
妊娠継続の可能性がある「切迫流産」
切迫流産は、流産する一歩手前の状態です。まだ胎児が子宮内で生きている状態であり、妊娠を継続できる可能性があります。
実際に切迫流産と診断された後、適切な処置をとって無事に出産したケースは数多くあります。ただし、妊娠12週までの切迫流産に対しては流産の予防に有効な薬剤はないとされています。安静にすることが有効との報告もあります。
流産の兆候を知っておこう
このように自覚症状などがないまま流産してしまうことは多いですが、事前に流産の兆候が現れることもあります。知識を身につけることで危険を早く察知し、対処できる可能性があります。
お腹の張り、腹痛
子宮の筋肉は胎児の成長と共に伸びていき、通常は緩んでいます。しかし、何かの原因で筋肉が収縮して緊張状態になると、お腹の張りや痛みを伴うことがあります。
出血
妊娠初期の出血の原因を特定するのは難しいものの、出血があったからといって必ず流産が起こるわけではありません。
しかし、生理のときよりも出血量が多かったり、真っ赤な出血がある場合は、流産の可能性を考えましょう。
おりものの急激な変化
子宮内に出血や感染症があったりすると、おりものに血が混じる、色が変わるといった変化が見られます。
つわりが突然なくなる
一般的に、つわりは妊娠5、6週目から胎盤が完成する妊娠12~16週目まで続くとされ、個人差はあるものの、そこから徐々になくなっていきます。ですが、流産の兆候として、つわりが突然なくなることがあります。
流産の原因を減らそう
流産を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らすために出来ることはあります。
妊婦健診をきちんと受ける
妊婦健診は赤ちゃんの様子を見るだけではなく、お母さんの子宮内の病気や異常、流産につながる異変を早期に発見できる大切な健診です。基本的なことですが、妊婦健診はきちんと受けるようにしてください。
激しい運動は避け、日常生活で無理をしない
激しい運動やストレスは、流産や早産の原因になります。軽めの有酸素運動などは妊婦の体調管理にも良いとされていますが、少しでも体調に不安を感じた場合は体を休めることを優先しましょう。
日常生活でもあまり無理をせず、睡眠をしっかりとって疲労をためないようにすることが大切です。
体調に異常を感じたらすぐに医療機関に連絡
異常を察知して早めに処置をすれば、場合によっては流産を防げることがあります。
出血や痛み、お腹の張りがおさまらない、胎動を感じないなど、ささいな症状でも良いので、妊娠中に体の異変を感じたら、すみやかに産婦人科や医療機関に連絡しましょう。
子宮内感染にかからないようにする
妊娠中に子宮内感染にかかると、感染流産や切迫流産を引き起こす恐れがある他、生まれた後の赤ちゃんの発育にも影響する場合があります。
妊娠中の性行為はコンドームをつけ、腟の過剰な洗浄は避けるようにしましょう。
また、歯肉炎菌も流産のリスクを高めるので、歯肉炎がある場合はきちんと治療しましょう。
胎児の染色体異常の有無を検査する
体外受精で得られた受精卵が持つ染色体の情報を検査することで、流産のリスクを下げることができるかもしれません。反復流産の経験がある場合には、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の実施を検討してみるのも良いでしょう。
女性の年齢が高くなるにつれて、胚の染色体数にエラーが発生する割合も上昇することが明らかとなっています。
胚が持つ染色体の数にエラーがあると流産が起こる可能性が高まるため、PGT-A検査によって染色体数に問題が無いことが確認できた受精卵を子宮に移植することで、胚移植あたりの妊娠の確率を上げるだけでなく流産のリスクを下げる効果も期待できます。
女性が比較的高齢な場合や、反復流産の既往があるカップルが対象となります。
PGT-A検査は、体外受精で得られた受精卵の細胞の一部を採取し、染色体の状態 (前述の「流産の原因:胎児側によるもの」を参照)を調べる検査です。
流産かも?と思ったときにすること
流産の可能性が疑われるときは、まずは安静にするようにしましょう。
医療機関の連絡先を家族みんなと共有する、分かりやすい場所に貼っておくなどして、事前に対策しておくことも重要です。
流産後に気をつけること
流産後1週間ほどは安静にし、入浴や性行為は控えましょう。
流産の時期にもよりますが、従来、一般的には次の妊娠をトライするのは生理が2,3回くるまで待った方が良いと言われていましたが、いくつかの研究では、これより短い間隔で妊娠を試みることのリスクは高くないことが示されています。
無理はせず、しっかりと心と体のケアに努めましょう。
なかなか気持ちの整理がつかず、悲しみを乗り越えることができない場合もあるかもしれません。
最近では、カウンセリングやグリーフケアを提供している機関も増えてきていますので、どうか自分を責めることはせず、かかりつけの産科や専門機関にご相談ください。各都道府県や市町村などにも、無料の相談窓口が設置されていることが多いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
流産の原因は不明であることが多いですが、PGT-A検査や不育症検査を実施することによってリスク因子を減らし、繰り返す流産を避けることができる場合もあります。流産を繰り返してしまった時には、どうか一人で悩まず適切な医療機関を受診してください。
参考文献
「流産・切迫流産」 公益財団法人日本産科婦人科学会(2018)
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=4
「流産のすべて」 公益社団法人日本産婦人科医会
https://www.jaog.or.jp/note/1%EF%BC%8E%E7%B7%8F%E8%AB%96/
「絨毛膜下血腫/ 感染性流産による流産」公益社団法人日本産婦人科医会
産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版 日本産科婦人科学会 編
遺伝カウンセリングマニュアル 改訂第3版 南紅堂
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