今では国内で年間42万件行われる体外受精。近畿地方の女性Aさん(38)は受精卵を子宮に繰り返し移植したが、うまく着床しなかった。そこで2016年に着床に最適な時期を調べる検査を受けたところ、一般的な移植時期の「黄体ホルモン投与から5日目」より、1日遅いほうが可能性が高まるとの結果が出た。(竹井陽平)
■受精卵、いつ戻す?
自然妊娠で受精卵は細胞分裂を行いながら、5日程度かけて卵管内を移動し、子宮内膜に着床する。体外受精は、ホルモン剤投与などでこれをまねる。
まず卵胞ホルモンを子宮内膜が6ミリ以上の厚さになるまで投与する。次に内膜の最終調整を行う黄体ホルモンを5日間投与し、同じ日数をかけて培養した受精卵を子宮に移す。
着床のタイミングは黄体ホルモン投与開始から5日目の女性が多いが、ずれてうまく着床しない人が少数いることが知られていた。
この着床のタイミングを遺伝子の働きから計ろうと、スペインの検査会社「アイジェノミクス」は、「子宮内膜着床能(ERA)検査」を開発した。
現在、この検査は、世界中で月間1000件以上行われている。日米の生殖医学会でも研究発表が相次いだ。国内ではすでに約50の不妊治療クリニックで検査を受け付けており、価格は15万円前後という。
■遺伝子を解析
検査は、黄体ホルモンを投与して5日目の女性の子宮内膜のごく一部をクリニックが採取し、アイジェノミクス社に送付。アイジェノミクス社は、高速で遺伝子を読み取る次世代シーケンサーにかける。
調べる遺伝子は236種類。粘液の分泌や炎症反応などの役割を持つ個々の遺伝子の働き具合を解析する。それによって、着床のタイミングが5日目でぴったりなのか、前後にずれているのかがわかるという。結果は約2週間で出る。
アイジェノミクス社による3万件の検査結果の集計によると、タイミングが「5日目でぴったり」は71%、5日目では「まだ早い」が25%、「もう遅い」が4%だった。
また、アイジェノミクス社によると、体外受精の手法の一つである凍結胚移植にERA検査での調整を加えると、着床率と継続妊娠率はそれぞれ6・4ポイント、10・5ポイント高まるという。
ERA検査を受ける前、Aさんは子宮に受精卵を11回移植。1回は流産し、10回は着床・妊娠しなかった。検査で最適とされた6日目で移植し、妊娠に成功。昨年夏に女児が生まれた。「もっと早くやっていれば良かった。でも、娘が生まれて本当に幸せ」と話す。
Aさんの体外受精に携わった医療法人「オーク会」(大阪市)の医師、田口早桐(さぎり)さんは「着床失敗は、受精卵に問題があるのか、子宮内膜なのか、両方なのかわからないことが多い。ただ、検査で着床に最適な時期がずれていることがわかれば、それを補正することで少しでも赤ちゃんが生まれる確率を高めることができる」と話す。
兵庫医科大学教授(産科婦人科学)の柴原浩章さんは「受精卵に比べると子宮内膜の検査は倫理面の課題も少なく、今後も広がっていくと思う。何度も着床不全を繰り返す女性にとっては一つの有効な選択肢ではないか」と指摘する。
ERA検査を受け付けている医療機関はアイジェノミクス・ジャパン社がホームページ(https://www.igenomix.jp/era-patient)で紹介している。